親でも出来ない未成年の相続放棄。利益相反行為から守る特別代理人

相続放棄は誰との合意がなくてもできる単独行為です。
ですが、未成年者の場合は未成年者本人だけで相続放棄を行うことはできません。

法定代理人の同意が必要です。

なぜ未成年者単独で相続放棄できないか?

本人だけで手続きが出来ない理由は未成年者だから、というしかありません。

これは何も相続放棄だけが特別なわけではなく、社会的に未成熟な未成年者を保護するという趣旨の一環です。

例えば高額な契約において、未成年の場合に親の承諾が必要なことは社会常識として知られています。
これは民法にも規定されていて(民法第5条)、相続放棄も考え方としてはこれと同様です。

 

法律行為全般に及ぶ未成年者の制約

契約など、権利を発生させたり、あるいは消滅させる行為のことを総称して法律行為と言いますが、未成年者はこれに制約が加えられているわけです。

大人と子どもの別称:行為能力者と制限行為能力者

民法では、人を「行為能力者」と「制限行為能力者」の二つに分けて扱っています。

行為能力者というのは、本人の意志のみで法律行為を行える人のことで大半の成人はこれに該当します。

大雑把には
大人は行為能力者、
子どもは制限行為能力者、
と言っていいかと思います。

成人の中にも、医師の診断によって制限行為能力者として扱われる人はいますが、未成年者はすべからく、制限行為能力者となります。

この制限行為能力者の法律行為に必要なのが法定代理人の同意です。(*)

(*)制限行為能力者の法律行為には法定代理人の同意が必要:
ちゃんとしている仕組みの下では身分証の提示などによって、未成年者は行為自体が行えないようになっていますが、そうなっていない場合は一旦は行為ができてしまうこともあります。
ただし、法定代理人の承認を得ていない制限行為能力者の行為は、後からでも取り消すことができます。
ただし、すべての法律行為がそうではなく、制限行為能力者だけで有効となる法律行為もあります。

 

親という名の法定代理人

大人の制限行為能力者(被後見人など)の場合は、特に裁判所に申し立てて法定代理人を選任しないといけませんが、未成年者はそうする必要はありません。

大半の未成年者にはすでに法定代理人がいるからです。

それは親権者。
いわゆる親です。
親が離婚していたりすると、父親か母親のいずれかが親権者です。

親がいない場合は、祖父母などが親代わりとなって親権者となっている場合もあるでしょうし、親権者がいない場合は、裁判所に申し立てて、「未成年後見人」が選任され、法定代理人となります。

ここまでが、未成年者の法律行為の標準的な話ですが、遺産相続は、この標準だけでは収まらない部分を抱えています。

それは、遺産相続では親と子で利害が対立するということです。

 

親が代理人となれない遺産相続の特殊性

親と子の両方が相続人である場合を考えてみましょう。

遺産分割は相続財産という一定のパイの取り合いです。
ある相続人の分配を増やすためには、他の誰かの相続人の分配を減らさなければなりません。
これが共同相続人の間に存在する利害の対立です。

このように、一方が利益を得ると一方の利益が失われる行為のこと民法では利益相反行為といいます。

相続人の数が減れば、その分だけ既存の相続人の取り分は増えることになりますから、親と子が共同相続人で、親が子を相続放棄させる行為はまさに利益相反行為なのです。

利益相反行為の当事者の一方にフリーハンドの代理権を与えてしまうと、もう一方の利益が毀損されてしまいます。

 

利益相反行為に求められる特別代理人

なので、親と子で利益が相反する行為を行う場合、未成年者の利益を保護することを目的に、別途そのためだけの代理人、特別代理人の選任を裁判所に請求しなければなりません。(民法826条)

特別代理人に特に資格は必要ありませんが、裁判者は未成年者との利害関係などから、その適格性を判断して選任します。

もっとも、素人目線で見ると、未成年者の特別代理人の多くは親が依頼した人なので、あまり意味をなさないような印象も受けます。

特別代理人選任手続きと相続放棄

子どもの住所地の家庭裁判所に対し、特別代理人選任審判の申し立てを行います。

子が複数いれば、それぞれに特別代理人が選任された後、各々の特別代理人が相続放棄の申述手続きを行います。

 

利益相反行為になる?ならない?

法定代理人が行う法律行為が利益相反行為であるか否かについては、外形から客観的に判断されます。

行為の意図や心情、その行為による効果は判断の材料にならないとされます。
<最高裁第三小法廷 48年4月24日 判例時報704号>

例えば、夫婦と子ども二人の家庭で、父親が亡くなった場合。
父親名義の不動産を母親一人の名義にするために、二人の子どもに相続放棄をさせようとするとき、その意図が、

・自宅不動産を売却する際に都合がいいから
・売却によるお金は子どもの学費に充てる

というように、子の利益につながる場合でも、子に相続放棄させることが利益相反行為であることに変わりはなく、特別代理人の請求が必要だということです。

ただし、母親も相続放棄している、あるいは子と一緒に相続放棄しようとしている場合は利益相反行為には当たりません。
これも客観的に見れば当然と言えるでしょう。

 

親が相続人でない場合の利益相反行為

法定代理人である親が相続人でなく、未成年の子どもだけが相続人であっても、特別代理人が求められる場合があります。

例えば、父親が他界している子ども二人の母子家庭で、二人の子どもの父方の祖父が失くなった場合です。

子ども二人は父の代襲者として、祖父の相続人になります。
母親は二人の子どもの親権者ですが、相続人ではありません。

このとき、子の一人のみを相続放棄させようとするならば、それは少なくとも兄弟間において、利益相反行為となりますから、一方のための特別代理人の選任を請求する必要が生じます。

 

親権者が代理した利益相反行為の効果

特別代理人を請求せずに、親権者が代理人として行った利益相反行為は無権代理行為と言います。

相続放棄のような裁判所を介した法律行為の場合は無権代理行為が行われてしまうことは考えにくいでしょう。

しかし、例えば遺産分割協議などは法律行為でありながら、裁判所を介すことなく、当事者だけで行うことができます。

ということで、無権代理行為が行わてしまった場合の取扱いがどうなるかということです。

無権代理行為は、本人が追認しない限り、本人に対してはその効力を生じません。(民法113条)

これは逆に言えば、本人が追認すれば無権代理行為も有効だということです。

未成年者本人が成人に達し、追認すれば、無権代理行為が行われた時点に遡って、有効とされます。<最高裁第三小法廷 昭和46年4月20日 判例時報631号>

たとえ利益相反行為であっても、それが子の利益になっているのであれば、必然的にこのようになるでしょう。

もし、本人の追認が得られない場合、無権代理行為によって損害を被る者がいれば、無権代理人はその者に対する賠償責任が生じますが、本人には生じません。

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