知的財産権は遺産か? 一番の難所は価値の算定

知的財産権とは、技術やノウハウ、あるいは文章や絵などの表現の模倣を禁じ、それを占有することの権利で、知的所有権とも言われます。
代表的なものに特許権や著作権があります。

いずれも形のないもの(*)ですが、公開や使用許可、あるいは権利の譲渡によって収益が発生するものであり、財産であることに疑いはありません。

(*)形のないもの:
形にとらわれないと言った方がいいかもしれません。
観たり聴いたり、利用したり、提供したりするタイミングでは、なんらかの形となっています。
原稿、本、テープ、電子媒体、etc.
しかし、知的財産は、その物理媒体を指すものではありません。

財産であれば、その所有者が亡くなれば、当然に遺産です。
知的財産権は相続財産として扱われます。

知的財産権には工業所有権と著作権があります。
上で挙げた特許権は工業所有権の一つです。

知的財産権
  1)工業所有権
      ① 特許権
      ② 実用新案権
      ③ 意匠権
      ④ 商標権      

  2)著作権

これら全て遺産となり得るわけです。

 

工業所有権の種類

工業所有権には以下のものがあります。

① 特許権
自然法則を利用した技術的思想の創作のうち、高度のものを言う。
いわゆる発明ですが、特許庁に出願し、審査を経て認められて初めて特許権となって、出願から20年間保護されます。

② 実用新案権
物品の形状、構造、組み合わせに係る考案。
特許の条件のうちの「高度なもの」を除いたものとされる。
出願によって権利となり、10年間保護されます。

③ 意匠権
物品の形状や模様、色の組み合わせなどの創作。
いわゆるデザイン。
特許庁に出願し、審査を経て認められて初めて権利として保護されます。保護期間は出願から15年。

④ 商標権
いわゆるブランドを想起させるもの。名前やマークなど、ブランドイメージの象徴。

工業所有権の相続の手続き

工業所有権の相続については、遅滞なく、特許庁長官に届け出を行う必要があります。

また、権利を継続させるには、特許権の場合は特許料など、毎年所定の登録料を納める必要があります。

ただし、被相続人が出願したものであっても、会社の業務として行ったのであれば、権利の帰属は法人となっていることが少なくありません。
そうであれば、権利が遺族に移るわけではありませんので、まずは権利の帰属を明らかにする必要があります。

 

 

著作権

著作権の対象は、表現とでも言えばいいでしょうか。
具体的には、小説、漫画、音楽、写真、絵、映画など。
これらを著作物と言います。

意外なところでは、コンピュータプログラムも著作権で保護されます。
(画期的なアルゴリズムであれば特許が認められるものもあります)

工業所有権との違いは、著作権の取得に届けが必要ないということです。
創作した途端に創作した人に著作権が発生します。
日記にも著作権が発生しているわけです。

 

著作者人格権と著作者財産権

著作権は二つの権利で成り立っています。
それが著作者人格権と著作者財産権です。

このうち、著作者人格権は創作者本人のみに帰属するもので、譲渡することができません。
なので、遺産相続の対象にはなりません。

著作者人格権は、
・公表権・・未公表のものを公表する権利
・氏名表示権・・氏名を表示、もしくは表示しない権利
・同一性保持権・・著作者の意に反して改変を禁じる権利
などです。

ですから、遺産となるのは著作者財産権だけということになります。

著作権の相続手続き

著作権自体、届け出が必要ありませんから、相続したとしても特に手続きは必要ありません。

もちろん、著作権料が発生していれば、書籍であれば出版社、音楽であればJASRAC(日本音楽著作権協会)などと著作権料の受取人の変更を始めとする契約の更新は行わないといけません。
その際、確かに相続したことを示す戸籍謄本、あるいは相続人が複数いる場合は遺産分割協議書などが求められるでしょう。

 

最大の難所は価値の算定

知的財産権が遺産だとしても、相続人が一人であれば、上で紹介したとおりの方法で引き継げばいいだけです。

また、見向きもされない特許権や著作権が相続のテーブルに載ることはありません。
いくら日記に著作権が付いているといっても、普通は遺産目録には載りません。

問題は、相続人が複数いて、かつ価値の在る知的財産権の場合です。

まず、知的財産権は分割が出来ません。
ですから、いずれか一人の相続人が相続することになります。

このとき、その知的財産権に相当する遺産が他にあれば、それを使って相続分を調整し、衡平な遺産分割が出来ますが、もし無い場合は、知的財産権を相続した相続人に対して、他の相続人は相当する代償金を請求することができます。

いずれにしても、知的財産権の価値を金額で算出する必要が出てきます。
権利の残余期間、将来に渡って予想される収益がその根拠となります。

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