相続人の廃除とは、被相続人自らが特定の相続人から相続権を奪うことのできる権利です。(民法892条)
請求できる権利ではあるのですが、廃除の是非を判断するのは裁判所になります。
相続人廃除の目的。それは遺留分への対抗
そもそも、自分の遺産の処理のし方は遺言で自由に決めることが出来ます。
遺産を渡したくない相続人がいれば、そのような遺言書を残せばいいだけです。
でも、ここで一つだけ問題があります。
それが遺留分です。
遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人に与えられる最低限の法定相続分です。
通常の法定相続分の二分の一が遺留分ですが、この遺留分は遺言書でも侵すことができない強い権利です。
つまり、相続人の廃除とは、すなわち、この遺留分を剥奪するための手続きに他ならないということです。
相続人廃除の2通りの手続き。生前と遺言
相続人の廃除のやり方は、そのタイミングによって2つ方法があります。
生前に行う相続人廃除
- 被相続人自ら(あるいは代理人として弁護士や成年後見人)が、家庭裁判所に「推定相続人廃除審判」を申し立てます。
ちなみに「推定」とあるのはまだ相続が始まっていないからです。 - 裁判所は、廃除されようとしている推定相続人の主張も聞くなどして審理し、廃除の可否を判断します。
- 審判が出された後、2週間以内に不服の申し立て(即時抗告)がなければ審判が確定します。
- 審判に不服があれば、不服の申し立てを行い、高等裁判所で審理してもらうことができます。
- 相続人の廃除が決定すれば、それを市町村に届け出て、戸籍にその旨が記載されます。
- あとは、相続の開始によって、不動産の登記や、口座の払い戻しを行う際は、この戸籍の写しを添付することになります。
- また、被相続人は、家庭裁判所に申し立てることによって、いつでも相続人の廃除を取り消すことが出来ますが、廃除の申請と同様に審判の申し立てをします。
- 相続欠格と異なり、遺贈の権利は残ります。(民法965条)
(以上、家事事件手続法188条)
遺言で行う相続人廃除
遺言で相続人の廃除を行う場合は、被相続人は廃除の希望を遺言書に残します。
被相続人が亡くなると、遺言執行者が家庭裁判所に「推定相続人廃除審判」を申し立てます。
遺言執行者は、遺言書で指定された人が承認するか、あるいは相続人間で決めるか等、この点は通常の遺言書の手続きと同様です。
あとは、廃除の申し立てを行い、以降は生前に行う相続人廃除と同様です。
また、生前に確定した相続人の廃除を遺言で取り消すことも出来ます。
これも遺言執行者が審判を申し立てます。
どういう行為が対象になるか?
相続人廃除の判断基準
条文に記載されている、相続人廃除となる行為は、
被相続人に対する、
- 虐待
- 重大な侮辱
- その他の著しい非行
出ましたね。
お約束の「その他」。
つまり、相続人の廃除に値するか否かの基準は、かなりあやふやなものです。
虐待や重大な侮辱にしても、程度の問題で、被相続人の主観ではなく、以下のようなことが考慮されます。
頻度や継続性
行為や言動が一時的なものであり、相続人の廃除の要件には当たらないとされた審判例があります。
責任の所在
その行為や言動が、申立人の態度に原因があるものについては相続人の廃除の要件には当たらないとされた審判例があります。
相続人の廃除が認められた例
相続人の廃除の要件に該当するか否かがケースバイケースであることは否めませんが、かと言って、グレーゾーンが無限にあるわけでもありません。
例えば、家業を継がないだけで廃除理由として認められることはありませんし、逆に懲役刑に服する者の廃除は認められる可能性は高いわけです。
以下に、実際にどんなケースで相続人廃除の判断がなされたのかを見ておきましょう。
虐待、および重大な侮辱による相続人廃除の例 その1
推定相続人の、被相続人に対する、
「病気で死ね」
「火事で死んでしまえ」
「80まで生きたんだから十分だ」
「早く死ね」」
などの言動が継続的だったとして、重大な侮辱に該当するとしました。
<平成4年10月14日東京高裁判決>
虐待、および重大な侮辱による相続人廃除の例 その2
両親が結婚に反対していたにも関わらず、暴力団員と結婚し、更に父親の名を借りて披露宴の招待状を出すなどした娘の行為を、虐待及び重大な侮辱に該当するとしました。
<平成4年12月11日東京高裁判決>
著しい非行による相続人廃除の例 その1
窃盗を繰り返して服役中の推定相続人が、被相続人に被害者への謝罪から被害弁償までを行わせ、精神的苦痛並びに経済的損失を与えたことが、著しい非行に該当するとしました。
<京都家庭裁判所判決平成20年2月28日>
著しい非行による相続人廃除の例 その2
被相続人の息子が20年に渡り、借金を重ね、債権者が被相続人の元に押しかけてきたり、あるいは2千万円以上の返済を被相続人に肩代わりさせるなどして、経済的身体的に苦しめててきた行為が著しい非行に当たるとしました。
<神戸家庭裁判所平成20年10月17日>