特別受益の持ち戻しとは、過去の贈与(特別受益)を現存する相続財産に加え、それを相続財産として分配する処理です。
贈与されたものがおカネであれば、その金額をそのまま特別受益として持ち戻せばいいだけです。
しかし、贈与が土地や建物の場合はそれに相応する持戻し額を算定する必要があります。
贈与の時期に制限はない
特別受益とされる贈与の時期に制約はありません。
相続が開始(他界)しているんですから、これから先の贈与はあり得ませんが、どんなに過去の贈与であっても特別受益になり得ます。
もちろん、特別受益か否かで揉めた場合には、ある程度の証拠を示す必要があり、それを用意することは時間が経つほどに難しくなることは否めません。
そうであっても、贈与からの時間が経過していること自体が特別受益の認定において不利になることはありません。
というか、普通は贈与が行われたタイミングと相続開始の時期は大きく離れているものです。
10年、20年前の贈与を特別受益として持ち戻すことは全然珍しいことではありません。
贈与していた物が消失しているとき
贈与があったとしても、長い間には消失してしまうこともあるかもしれません。
消失の原因が天災や不可効力の場合には持戻しの対象にはなりません。
言い換えれば、それ以外の場合には消失していても、持ち戻す必要があるということになります。
贈与された不動産を売却によって消失したのであれば、持戻すのは当然です。
直近の価値が持戻し額
贈与された物件の価値には時間軸によって、以下の3つのものが考えられます。
- 贈与されたとき
- 相続開始時(被相続人が亡くなったとき)
- 遺産分割時
このうちのどれにするかまでは民法に規定はありません。
話し合いで合意できればどれでも構わないのですが、1か2で争ったケースでは最高裁の判例があります。
2の相続開始時の評価額とされました。
【最高裁第一小法廷判決 昭和51年3月18日】
さらに、実際の相続では、2と3の時間が経っていることも少なくありません。
それも考慮されます。
この場合は3の遺産分割協議のときの価額が採用されるようです。
実際にわたしが経験した相続でもそうなりました。
遺産分割協議調停は、亡くなってからすでに10年が経過していました。
一人の相続人が贈与を受けていた不動産を持ち戻すことになったのですが、役所から固定資産評価額を取り寄せて持戻し額を決めました。(*)
つまり早い話、1か2か3か?という議論はさておき、現在の時価が持戻しの額だということです。
(*)固定資産税評価額から持戻し額の決め方:
一例ですが、土地は、固定資産税評価額を0.7で割って公示価格とし、その公示価格を0.9で割って実勢価格として、これを持戻し額としました。
家屋は建ててから20年以上が経過していましたので、固定資産税評価額をそのまま持戻し額としました。