相続の承認と放棄は相続人固有の権利です。
この権利を引き継いだ相続人のことを再転相続人と言います。
普通は引き継ぐことはありません。
というのも、被相続人が誰かの相続人であっても、熟慮期間(*)はとうに過ぎていることが大半だからです。
(*)熟慮期間:
相続人が相続を承認するか放棄するかを選択できる期間のことで、自己が相続人であることを知ってから3ヶ月。
この間に承認も放棄もしなければ承認したものと見なされる。
再転相続とは?
逆に言えば、承認も相続放棄もしないまま熟慮期間内に他界すれば、その権利は相続人に引き継がれるというのが再転相続です。
再転相続人を扱った直接の条文は見当たりません。
根拠法は相続の一般効力を謳った以下の条文となります。
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
<民法896条>
ただし書きの部分に、一身に属した権利義務は引き継ぐとは限らないとありますから、相続の承認と放棄が相続人固有の権利であれば、亡くなると同時に消滅しても良さそうな気もしますが、しかしそうすると、遺産が宙に浮いてしまいます。
再転相続人は当然なのです。
ただ、本来の相続人としての権利と、再転相続人の権利の二つを持つことになりますから、特に相続放棄については、ちょっと注意が必要です。
再転相続の例
例えば、祖父が亡くなり、そのひと月後に、父が相続放棄しないまま亡くなったとします。
このとき、父の子は、父の相続人であると同時に、再転相続人にもなります。
祖父の遺産を相続(承認)するか、しない(放棄する)かを選択する権利を併せ持つわけです。
再転相続人として承認すれば、祖父の遺産を父が相続したことになり、それはそのまま子が相続します。
反対に、再転相続人として相続放棄すれば、祖父の相続の一切の権利・義務が失くなります。
再転相続の手続きは通常の相続と同様です。
再転相続人として承認する場合は、何もしなければ、あるいは祖父の遺産を処分すれば単純承認となります。
再転相続人として相続放棄する場合は、熟慮期間内に家裁に相続放棄の申述をします。
再転相続の熟慮期間の起点
この熟慮期間ですが、父の場合は、父自身が、自己が相続人であることを知ったときから3ヶ月です。
これをこのまま子に適用してしまうと、父が亡くなってすぐに再転相続人であることを知ったとしても2ヶ月しかありません。
この例の場合はまだ2ヶ月残っていますが、これでは父の他界した時期によって、子の熟慮期間が左右されてしまいます。
ですので、自己が再転相続人と知った時を熟慮期間の起点としています。(民法916条)
すなわち、父が他界した後から3ヶ月ということになります。
祖父の相続放棄はこの間に行えばいいわけです。
相続放棄が再転相続に与える影響
次に相続放棄の範囲です。
結論としては、
祖父の相続だけを承認することはできません。
父の相続だけを承認することはできます。
再転相続人の権利はあくまで父の権利を代わりに行使するだけですから、父の相続で相続放棄をすれば、祖父の遺産についても相続放棄したのと同じ効果が生じます。
逆に、父の相続を承認し、祖父の相続については相続放棄することはできます。
これはまさに、父が生前に相続放棄したのと同じことです。