相続人の間で争いになった寄与分について、審判、あるいは判決によって寄与分が認められた例をタイプ別に紹介します。
寄与分には以下の5つのタイプがあります。
- 家業従事型
- 療養看護型
- 扶養型
- 財産給付型
- 財産管理型
家事従事型の寄与分
無報酬か、もしくはそれに近い形で被相続人が営む事業に従事し、財産の維持、増加に貢献した場合です。
家業であった農業に被相続人が死亡するまでの46年間、中心となって従事した妻の行為が、夫婦の間の通常の扶助を超えて、被相続人の財産の大半である農地の維持に特別の貢献があったとして3割。
同様に、27年間に渡り、ほとんど無報酬で家業を助けた長男の行為は、他の兄弟と比べて格段の貢献が認められるとして1割。
それぞれ寄与分として認められました。
【福岡高等裁判所 昭和52年6月21日】
高裁まで行ったんですね。
過大な寄与分を主張したからなのか?
あるいは貢献を過小評価されたからなのか?
いずれにしても調停は成立せずに、審判に移行したわけです。
そして、審判を不服として即時抗告したために高裁(抗告審)での審理となったということです。
さて、ちょっと見ると、妻の取り分が3割も増えたように感じますが、そうではありません。
最終的な妻の取り分は、長男と妻の合計の寄与分4割を差し引いた残り10分の6に法定相続分二分の一を掛けて、妻の寄与分3割を加えたものですから、
(1 - 4割)✗ 1/2 + 3/10 = 6/10
結局、遺産総額の6割です。
配偶者の法定相続分は二分の一ですから、寄与分を主張しないときと比べて10分の1しか増えていないことになります。
療養看護型の寄与分
被相続人の療養看護に従事し、本来掛かるべき療養看護のための支出を抑え、財産の維持に貢献した場合です。
同居していた被相続人が痴呆を患ったため、入院するまでの10年間は寝ないで番をすることを余儀なくされ、さらに入院後の亡くなるまでの5ヶ月間はタクシーで病院へ通い、身の回りの世話したことが、親族による通常の扶養義務を超えているとして、痴呆が高じてから亡くなるまでの10年間について、家政婦の相場料金の60%を寄与分としました。
【盛岡家庭裁判所審判 昭和61年4月11日】
わたしが主張した寄与分もこれです。
相続人と争うのは覚悟していましたが、看護の必要性について厳格な証拠を求める裁判所と、先入観の塊のような調停員に苦労しました。
扶養型の寄与分
被相続人の生活費を賄ったことによって支出が抑えられ、財産の維持に貢献した場合です。
8人兄弟の次男が母親を扶養し、825万円余りの負担をしたことによって、本人の支出が抑えられたとして、遺産およそ4,300万円のうちの730万円が寄与分として認められました。
【大阪家庭裁判所審判 昭和61年1月30日】
つまり、4,300万円から寄与分の730万円を引いた残りの3,570万円を8人兄弟で等分するので、一人およそ446万円。
次男への分配は、これに寄与分を加えたおよそ1千176万円となります。
財産給付型の寄与分
被相続人に対する財産の付与、移転、あるいは債務の返済などによって財産の維持、増加に貢献した場合です。
婚姻中に築いた財産の名義が被相続人の夫であっても、共働きで収入に著しく差のなかった妻に5割の寄与分を認めました。
【大阪家庭裁判所 昭和51年11月25日】
相続順位が分かりませんが、仮に子が共同相続人の場合、妻の法定相続分は二分の一。
ですから、5割の寄与分によって、妻の最終的な相続分は4分の3になります。
そもそも専業主婦であっても、離婚における財産分与は半々なのですから、5割の寄与分は妥当だと思いますが、妻の収入を前提としているところが気になります。
財産管理型の寄与分
被相続人の財産の管理に従事したことによって、管理費用の支出が抑えられ財産の維持、増加に貢献した場合です。
被相続人が所有する土地を処分をする際、借家人との立ち退きのための交渉、立ち退き後の更地、および登記変更の手続き、さらに売買契約締結に至るまで主導的な役割を果たした相続人に対して、土地の売却価格の増加に対する貢献を認めて、不動産の仲介手数料を考慮して寄与分としました。
【長崎家庭裁判所諫早出張所 昭和62年9月1日】
相続人は不動産業か何かなのでしょうか。
これだけのことを行った相続人に寄与分を認めないというのも違和感がありますが、争いになったということなんですね。
もちろん、過大な寄与分を主張した可能性もあるのですが。
いずれにしても、寄与分の要件とされる「継続性」が満たされていない場合でも、寄与分が認められたケースです。