特別受益の持戻しの限界をくつがえす遺留分

贈与を相続で相殺する特別の受益の持戻し。

贈与を受け取っていた相続人(受遺者)にとってはなんともイヤな制度です。
逆に贈与を受けてこなかった相続人にとってはありがたい制度です。

わたしの経験が後者なので、後者の立場で書きますけど、この記事の短いタイトルの中で二転三転してるんですよね。

特別受益の持戻しの制度を知って喜んだものの、

その限界を知って落胆し、

また、それがくつがえされると聞いて希望が湧く。

こんな感じ。

持戻しの限界とは、特別受益を相殺するにも、その原資となる遺産がどれだけ在るかに左右されてしまうということです。
「特別受益の持戻しの限界。多すぎた贈与は返す必要なし

極端な話、贈与で遺産をゼロにしてしまえば、特別受益の規定は有名無実化します。

なぜ、そんなことになるかと言うと、持戻しという処理は、特別受益を実際に遺産に戻すのではなく、机上の数値のやり取りだけだからです。

ですから、いくら持戻したとしても、現実の遺産が残っていなければ、なんにもなりません。

ところが、そうでない場合もあるというのが本エントリのテーマです。

それは、特別受益が遺留分を侵害した場合です。

遺留分とは、相続人に保証されている最低限の相続分。
遺言ですら侵すことのできない強力な権利です。
この権利は特別受益の持戻しにおいても威力を発揮します。

例えば、

父親が亡くなって残された遺産が1,000万円。
母親は既に他界していて、兄弟二人だけ。
長男は父親から住宅資金として4,000万円の贈与を受けていました。

相続はどうなるかというと、まず、長男が住宅資金として受け取った4,000万円が特別受益であることに議論の余地はありません。

これを持戻すと、現存する遺産1,000万円と合わせて5,000万円。
これがみなし相続財産となります。

兄弟二人、法定相続分で分けると、1人2,500万円づつ。

なのですが、現存する遺産が1,000万円しかないので、弟がそれを受け取ってチョン。
まさに持戻しの限界ですね。

さて、そこで遺留分です。
相続人である二人の兄弟の遺留分はそれぞれ法定相続分の二分の一です。

つまり、相続財産の4分の一が弟の最低保証の相続分ということになります。

ここで問題になるのが遺留分の根拠となる相続財産はいくらか?という問題です。

現存する遺産で言うと、1,000万円の四分の一が遺留分。
遺留分は250万円ですから、1000万円を手にする弟は何も侵害されていません。

ところがみなし相続財産を根拠とするとどうでしょう?
5,000万円の四分の一は、1,250万円。

弟が受け取る相続分は1,000万円ですから、250万円の遺留分が侵害されていることになります。

侵害された原因は言うまでもなく、兄が受け取った贈与です。

つまり弟は、遺留分減殺請求によって、兄から250万を受け取ることができるわけです。

記事タイトルの「覆(くつがえ)す」というのはちょっと大げさでしたかね。
でも遺産総額がもっと大きければ、インパクトもあるでしょう。

 

ちなみに、民法には、遺留分を決める際の相続財産は、現存する遺産なのか?、それとも特別受益を持戻したみなし相続財産なのか?、明記されていません。

そこで指針となるのは判例です。
遺留分の算定の根拠となる遺産は、特別受益を加算したみなし相続財産とした判例があります。
(昭和51年3月18日 最高裁判決)

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